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『Reminiscence』  


ナイアガラの滝のごとくに流れでる映像や音楽を浴びる日々、さすがの修験者たちも、これには一たまりもないはずだが、私たちの多くはそれに慣れ親しみ、さらなる刺激を求めるかのように、ノアの洪水まがいの世界へとダイヴする!そんな中、ミュージックビデオは竜宮城!?一際刺激に満ち、時を忘れるほどだ。また映像シーン自体をリードしてきた存在ともいえよう。とはいうものの、そういった映像史が作られる一方で、その流れに逆行するかのような世界が展開されているのが『reminiscence』だと思う。

そこに映されるのは、誰もが目にしたことがあるかのような風景の一コマ一コマ。自分の身近にある光景が、モノクロームな色調で表現されたり、景色自体が、単純な色彩の構成としてフレームに切り取られる。また、写真をアルバムに貼り付けていくように、映像が並べられ、まるで、記憶に一瞬一瞬が足跡を残そうとするかのようだ。フィルムに焼き付けられた日常、その中の一枚をじっと見つめていると、その時の時間がよみがえり、風景が動きだす、ゆったりと空を泳いでいく雲たちが、空に漂う大陸となり、世界地図は、地殻変動を起こしながら塗りかえられていく。私自身は、いつしか映像の一部になり、誰とも知らぬ風景の記憶は、私の出会ってきた風景と重ね合わされていく...。

この作品は、さまざまな材質による音によって物語られていく。現実から採取し、加工された生音や、声などが挿入されたり、そうかと思えば、ピアノや、弦を弾くシンプルなメロディが一音一音空間に染みわたっていく。また電子音が空間にざわめきをもたせながら拡張され、時間の厚みを塗り重ねていく。それらが、さまざまな物質感をもってわたしたちの聴覚へと語りかけ、風景が紡ぎだされていく。それは、時に非常に叙情的にも聞こえ、憂愁を帯びているかのようだ。音は、渾然一体となり、私たちの記憶に呼びかける。聴く者の想像力は、いつか、どこかしらで覚えている感触、空気の肌触りを頼りにしながら、記憶の風景へと触手をのばしていく。

日常はとらえどころのないものだといえる。しかし、この作品に出会う者は、記憶によって息づく日常に今一度触れることとなるだろう。それが、どのような価値をもつかと問われても、一概には言いがたいが、身近なものとの触れ合い、なにげなく過ぎ去っていくものとの交流が、私たちが生活する上で、かけがえのないものであるように、ささやきかけているかのようである。

これからも、感性を研ぎ澄まし、新たな知覚の領域へと、手探りしながら踏み込んでいくことを期待したい。                             
藤浦光俊(美術家)

及川潤耶、齋藤高晴、2人の気鋭若手作家による音楽と映像のアンビエンス・ワールド!エレクトロニクスや生楽器を最小限用いて表現された音響世界は、混沌としていながらもどこか身近に感じさせる心象風景を浮かび上がらせてくれます。一方映像は、断片的な光景を繋ぎ合わせ、音楽とシンクロしたアーティスティックな表現が試みられています。聴覚と視覚を共に刺激する、シネマティックでコンセプチュアルな作品を是非体感してみて下さい!
Beams Records Online shop 作品紹介より